アウトドアブーム

あれはまったくめちゃくちゃなブームだった。
すでにバブルが崩壊していた1993年に、
アウトドアの大御所L.○.ビーン が、自由が丘に続いて、よりによって新宿歌舞伎町に直営店を出したのがことの起こりだった。(のではなかろーか)
あっという間に、おしゃれ系アウトドアのエーグルやエディ・バウアーが澁谷原宿に店をオープンさせ、3年前からオープンしていた本格派アウトドアのパタゴ○ア、ティンバーランド、ジャックウルフスキンといった店も、ここへきてがぜん脚光を浴びた。

そうして迎えた1994年は、まさにアウトドアブーム一色となった。



台風の目、L.○.ビーンはその年、日本中の高校生にカタログを送るはめになったにちがいない。というのも、海外からカタログを取り寄せるっていう行為も、もうひとつのブームだったからだ。

気の毒なのは、日本の雑誌に紹介されてしまった海外の通信販売業者だろう。
彼らはいったいどれだけたくさんの
同じ文面のカタログ請求レター を受け取り、いったいどれだけたくさんのカタログを 無料で日本に送り 、いったいどれだけちっぽけな注文を受け取ったことだろう。

さらに気の毒なのは、彼らが思い余って、日本語の注文書付きのカタログを作り、日本語オペレーターサービスを開始した時には、すでにブームは終わっていた、、、ということだ。

おそるべし日本のブーム!



ところで、そんなアウトドアブームが起ころうとはつゆ知らず、1993年(創業8年目)の冬、パタゴ○アへの裏ルート(第五話を読んでね)を突き進んでいた私たちは、もののついでにL.○.ビーンへの裏ルートにも入り込んでいました。

ハイ、みなさん、もうおわかりですね。
そうです。ぬかるみ堂はアウトドアブームにぶち当たってしまったのです。

降ってわいたようにお客さんが店に押し寄せてきました。
と同時に、恐いもの知らず遠慮知らずの高校生たちが、店の商品を
試着 し、サイズや色柄を チェック するためだけにやってきました。彼らはそうしておいて、家に帰ってから自分でアメリカに注文するのです。
どうしてかというと、L.○.ビーンの商品を身につけるだけじゃなく、自分でアメリカから商品を取り寄せるってことが、彼らの間でステイタスになっていたからです。
まあこれはなかなかいいことだよね。時代を担う若者が、海外通販をやることで送金や関税のことなんかを勉強できるわけだからね。英語の勉強にもなるしね。

しかし、ここで気の毒なのは、実は私たちだったのです。

今のような日本語版のカタログが作られるのはずっと先のことで、当時のL.○.ビーンカタログはアメリカ版、つまり全文英語のものでした。
注文書も英語なら、注文書の説明も英語、サイズの単位もインチときてる。なにより、アメリカでいうMサイズやLサイズがいったいどのくらいの大きさなのかなんて、カタログを見ただけでは分かりっこありません。

そこに都合よく、ぬかるみ堂があったというわけです。

「カタログ見せて下さい」
「これの関税いくらかかりますか?」
「ぼくだったら、サイズ、Mですか、Lですか?」
といって高校生たちがやってきましたが、これはまあいい。

困りもんなのが、電話の向こうからサイズを聞いてくる奴。姿が見えないのに、どうしてキミのサイズが私にわかるのかね。身長と体重でMだとしても、ひょっとしてキミが
特に肩幅が広い ってこともあるよね。不思議なことに、この手の質問は意外と多い。なんでかな。

「レギュラーとトールってありますけど、トールって何ですか?」
「それは手足の長い人のことですね」
「えっと、長いっていうと、、」
「あなたは人と比べて、
特に手足が長い と思いますか?」
「いやあ、別に、、」
「じゃあレギュラーですね」
(日本人でトールサイズの人なんて、滅多にいない)

「ハンティングシューズなんですけど、26.5センチだとサイズいくつになりますか?」
「ソックスはふつうのを履きますか、それとも山用の厚手のを履きますか?」
「えっと、ふつうのです」
「それだったら、8号ですね」
「え、、あ、、」
「26.5センチはふつう9号ですけど、ハンティングシューズはかなり大きめにつくってありますので8号で大丈夫です」
「あの、BとかDとかって、、」
「それはくつの幅ですね。あなたは
特に足の幅が広い とかってありますか?」
「え、、いや、、」
「日本人の場合、ふつうはDのミディアムで大丈夫です」



どうやってうちの店のことを知ったのか、質問電話はどんどこかかって来ます。

「あのー、注文して一ヶ月経つのに、
まだ届かない んですけど」
「三ヶ月かかったって人もいるから、待ってるしかないですね。カスタマーセンターに聞いてみたらどうですか?」
「聞いたんです。そしたら、いつ届くかとかは分からないって言われて」
(キャンセルの手紙を出すという手もあるが、そういうややこしいことは彼には勧められないしなあ)

「カタログほしいんで、L.○.ビーンの
住所教えて 下さい」
(なんと、ここまで初歩的なことを聞いてくるとは!ヒアリングの苦手そうなこの男の子に、電話でスペルをひとつづつ言って、フリーポートの住所を伝えるのがどんなに疲れる行為だったか)

「Tシャツとスカートを通販で買ったんですけど、なんか合わないんで、
買い取って もらえませんか?」
「買い取りはしてないんですよ」
「じゃあ、どこか買い取ってくれるところありませんか?」
(女の子の方が、ずうずうしく言ってくるね)

とまあこんな具合に電話相談やらなにやらをボランティアでやっていたのだから、L.○.ビーン社は感謝状のひとつくらいこの私にくれてもいいんじゃないかなあ。


ところで話変わって、このアウトドアブームはキャンプ場にも押し寄せてきていました。
何言ってんだ、キャンプ場はもともとアウトドアじゃないか、とお思いのみなさん、それがそうじゃないんです。

今までのキャンプは、どちらかというと
野営 って感じだったのね、ところがそこにオドロキの盛り上がりでブームが押し寄せ、またたく間に、 花見、宴会 って感じになっちゃったのです。

これについては、次回につづく。

 

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