お客さんから、 「こういったモノって、現地に買い付けに行くんですか?」と、うらやましそうに聞かれることがよくあります。
ファッション雑誌なんか見ると、「月一回スタッフがロスに買い付けに行く」なんてことがショップ紹介でやたらと書いてあるから、ユーズドの仕入れとはアメリカに行くことなんだ、いいなあと思っている人が多いのでしょう。
しかし、私たちの場合は、
「いや、そうじゃなくて、輸入してるのよ。つまり、 貿易業務 で仕入れてるのね」という答えになる。
「買い付け」というのは、ヒコーキに乗って外国に行き、仕入れして帰ってくるってことで非常にわかりやすい。
ところが、「貿易」となると、誰もが知ってる言葉なんだけど、その実体はバクゼンとしていてなんだかイメージできないって感じがするよね。 だから、貿易していると説明したとたん、たいていの人は会話をやめちゃう。
そこで、 貿易の実体
をお話ししようと思います。
が、その前に、なんで今までずっと貿易でやってきたのかということについてもちょっと聞いてね。
私たちが貿易にこだわったのは、
まず第一に、私たちは「 リーバイス501XX 革パッチ」なんかのヴィンテージものがすごく好きってわけじゃないからです。ヴィンテージより レギュラー 、つまり普通の古着のほうが好きなのね。
だから、現地に行って自分の目で「これだ!」と確かめなくても、アメリカの古着業者のほうで「これだね」と選別してくれたものを、FAXで注文すればいいってことになるわけ。(ただし、レベルの高い選別をしてくれる業者を探すのはやっぱ大変だけど・・・)
第二に、私たちが成田空港からも関西空港からも遠い日本海側に住んでいるってことがある。買い付けに行けば飛行機代やアメリカ滞在費が高くつくというのに、その上さらに、国内での移動費まで高くつくってことが気に入らないわけ。
貿易のほうが、商品の生存率を考えても 安くつく はずだと思うのね。
第三に、買い付けのためにアジアに行くのは嬉しいけど、アメリカに行くのはヤダなあ、という個人的な好き嫌いの問題がある。ましてや古着の買い付けとなると、ロスをレンタカーで走り回り、モーテルにわびしく泊り、行く先々で出会う他の日本人バイヤーと油断なく情報交換することになるにちがいないだろうから、なおさらイヤだ。
これがもし、「ユニバーサルスタジオに行かんかね?」というはなしであれば喜んでロスに行くし、「グランド・キャニオンに行かんかね?」というはなしであれば、なんとしてもアメリカに行きたい。
さてこのへんで、話を貿易の実体に戻しましょう。
革ジャン を1000ポンド(450キログラム)単位で輸入していた頃のことです。
ニューヨークからコンテナ船に積み込まれ、一ヶ月かかって名古屋港に着いた私たちの革ジャンは、乙仲という業者(通関の代行と運送の手配をしてくれる)によって、富山まで運ばれてきます。
あとは輸入関税と消費税を払えば、「ハイ、通関!」となるわけです。
ところがどうしたことか、すんなり通関させてもらったためしがない。
どうしたことか?実はわかっている。
私たちが通関させようとした富山のF港は、ロシアからの材木を主に扱う貿易港であったため、古着などという怪しげなものを扱うのは始めてだった。
しかも何より悲惨だったのは、頼んだ 乙仲の通関士 が頼りにならない人だったってことなんだよね。
富山に荷物が着いてから一ヶ月も待たされたある日、私たちは 通関検査の立ち会い に行った。
去年の にがい経験 を思い出し、わざわざ翻訳しておいたインボイス(納品書)と体重計を持参する。
去年・・・
やはり通関検査の立ち会いに行った私たちは、書類に「古着」と記してあるのを税関の係官にとがめられ、「革が入っているじゃないか。毛皮も入っているぞ。革と毛皮をちゃんと分けて重さを計りなさい」と命令された。
(毛皮ったって、ジャケットの衿についてるこれ、ホンモノじゃなくてニセモノのフェイクファーなんだけど・・・)と心で思ったが、従順な一般市民である私たちは口答えなどせず、おとなしく命令されたとおり450キロの革ジャンをすべて広げ、分類し、計量した。
ところが、それからいつまで経っても「通関しましたよ」の電話はかかってこない。どうしたことか?
どうしたもこうしたも、通関士のT氏が書類を税関に提出していなかったのである。(んな、ばかな!)
ようやくやる気になったのだろう、T氏からの電話が入った。
「商品の 素材 はなんですかねえ」
「革ジャンだから、牛とか豚とか羊でしょうね。輸入禁止のワニとかは入ってませんよ、どう見ても」
「 デポジト ってなんですかねえ」
「DEPOSITは前金ですけど。お渡ししたインボイスに、前金OOドル、残金OOドル払ったって書いてあるはずですが」
「じゃあこれ、計算し直さなきゃいかんなあ」
(なに〜〜〜!ひょっとしてあなた、残金だけで計算してたっつーの?
だいたい何十年も通関士やってて、なんでDEPOSITなんて初歩的な英語がわかんないのよ、辞書引きなさいよ!)
とまあこのようなにがい去年の経験があったわけね。
そこで今回私たちは、翻訳したインボイスと、万一に備えて、お風呂上がりに使っているあの体重計を車に積み、通関の立ち会いに「どうだ!」とばかりに望んだということなのだ。
荷物が一ヶ月も 港の倉庫に放置
されていたのはやはりT氏のしわざだった。
さっそくボスは翻訳版のインボイスを見せて、T氏に荷物の内容を説明する。T氏はうんうんと納得している。どうやら作戦はうまくいったようだ。
ところが、
税関の係官が何も言わないうちに、T氏は「革ジャンを分類しましょう」と余計な提案をしてしまう。
そのくせ自分はさっさと現場をずらかってしまった。
倉庫に残された私たちと港の心優しい作業員のおじさんとが、持参の体重計を使って革ジャンを分類計量するはめになった。万が一に備えておいた体重計がこうもやすやすと出番になるとは、なんてこった。
なんとか計り終えてほっと一息ついた時、ふらりとT氏が戻ってきた。こういうタイミングだけはいい男なのだ。
「どうやって計ったんですか?」と、T氏はなぜか驚いている。
「これで計ったんですよ」と、ボスが体重計を指差した。
「どうやって計ったんですか?」T氏はまたも同じことを聞いた。
なんと、この定年間近の男は小学生が聞くようなことを質問していたのだ。
そこでボスは、荷物の計り方、つまり荷物を持って体重計に乗った時の重さから自分の体重を引く、という簡単な引き算のやり方を実演してみせるはめになった。やれやれだ。
二日後、T氏から電話が入る。
「他に書類はありませんか?」
「他の書類って何でしょう。たとえば何ていう書類のことでしょうか?」
「いやあ、まだ 他にも何か
書類がないかと思って」
(なに〜〜〜!足りない書類があれば、これこれがないって言ってよ。他にも何か、っていったいなんなのよ!)
とまあこのような貿易の実体を重ねて、私たちはユーズドを仕入れしてきたのですね。ちょっとはわかってもらえたかな。でもなんだかロスに買い付けに行ったほうが楽みたい・・・と自分でも思いましたね。 |