第七話

死んだがかのう

「うわぁぁぁぁぁぁ、血ぃ!」

洋介が叫び、押さえていた手を引っ込めた。鉄也もつられて、カエルの腰のあたりを押さえていた手を離してしまった。

カエルは背中をベニヤ板にぶつけ、バウンドさせて暴れた。その度に、血が盛り上がるように吹き出て、どんどん広がっていった。

「ボウヤ、手ぬぐい。畳に血が落ちる!」
鉄也が我に返って叫んだ。
「わかった。それよか、てっちゃん手ぇ離されんな(離すなよ)!」
「おう。洋ちゃん、足押さえとかんかよ!」
「う、うん」
「慎二、カエルの手ぇ、ちゃんと持っとけ!」
「・・・・」

慎二は顔を引きつらせて窓の外に立ちつくしていた。カエルの手の平を打ち付けた虫ピンが、ベニヤ板から抜けそうになっている。
「慎二、手ぇ!」

慎二は引っ込めていた手を出そうとするが、鉄也の顔を見たとたん、「ううっ」と泣き出した。カエルの右手がベニヤ板から離れ、バイバイしているように動く。
「慎二、おまえいい加減にせえよ!」
「だって、てっちゃん、顔・・・血ぃ・・・」
慎二がしゃくり上げながら鉄也の顔を指差した。
「なに言うとんがよ、早う手ぇ押さえんかよ(押さえろよ)、泣いとる場合かよ!」
鉄也は凄い形相で怒った。                           

亮一が鉄也を見ると、鉄也の顔にもシャツにもカエルの血が飛び散って、無数の斑点をつくっていた。
「鉄ちゃん、顔に血ぃついとる」
「へっ?」
鉄也は亮一の言葉に、おもわず顔をぬぐおうとして、カエルを押さえていた手をまた離してしまった。

カエルが暴れた。今までにない力で暴れた。

左手がベニヤ板から離れ、太股も離れ、ふくらはぎも離れ、虫ピンを手と足に持ったまま仰向けでバタバタと暴れた。切り口から、太いみみず状の内蔵が、血にまみれながらゆっくりと外に溢れ出し始めた。四人は呆然と眺めていることしかできなかった。

「ひぃぃぃぃぃぃぃ」
慎二が引きつった悲鳴を上げた。
「うるせえ、びっくりさせんな、おまえみたいな奴は死ね!」
鉄也の罵声を浴びて、慎二はとうとう泣きながら逃げるように帰っていった。

カエルは仰向けのままずるずると内蔵を引きずりながら移動していって、机の隅の壁にもたれかかったところで、「グゲェー」と一声鳴いてから全く動かなくなった。
「死んだがかのう」
洋介がこわごわ訊いたが、鉄也も亮一もしばらくは返事も出来ず、ぼんやりとカエルを見つめるだけだった。




 

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