第六話

ズリ、ズリッ

手の平と太股とふくらはぎに、それぞれ三本づつ虫ピンを打ちつけられてペケの字の格好にされたカエルは、なおもスコスコ、バタバタと暴れているので、まったく手を離してしまうことは出来ず、鉄也と慎二と洋介はそれぞれ片手で押さえ付けながら一息付いた。

「ようし、ようやった。慎二もよう頑張ったのう」
鉄也は大人の口振りで言うと、額の汗をぬぐった。
慎二は無理に笑顔をつくって、「おお」と応えた。
「よし、洋ちゃん、本見て命令してくれ。これからが本番だちゃ」

洋介は右手で教科書を持ち上げた。
「えーっと、まずピンセットで腹の皮の一部をつまみ、はさみで縦や横に切ります」
「ボウヤ、ピンセットでつまめ。そんでオレにはさみ」
もうすっかり長兄きどりの鉄也に、亮一は無言で従った。

「えっと、タテとヨコのどっちよ?」と鉄也。
「縦や横に切ります」洋介は繰返し読み上げた。
「だ、か、らー」
言いかけてすぐにあきらめ、鉄也は横に切った。

カエルの黄色い腹に、細いだ円の肌色のくぼみが出来た。みんなで覗き込んだが、特に変った様子はなかった。

「次に、はさみで腹の筋肉を縦に切ります」
「タテだにか(タテじゃないか)!」
「だって本に書いてあるもん」
「だから本見て命令してくれって言うたねか!」
鉄也はカエルに悪いことをしたではないかと言いたげに、目の色を変えて洋介に文句を言った。

「タテでもヨコでもいいから、早く次やろうよ、てっちゃん」
相変わらずスコスコやっているカエルの腕を押さえながら、慎二が懇願した。亮一は鉄也の複雑な気持ちがわかる気がして、口を挟まなかった。

貧弱なはさみは刃のすり合わせが悪く、時々「ズリ、ズリッ」という切れ味の悪い音がした。その度に亮一の首筋に鳥肌が立った。慎二は右手でイガグリ頭を掻きむしった。

鉄也が暴れるカエルの腹を四センチばかり切り進んだところで、はさみが止まった。
「あれっ、なんか引っ掛かる」
「それ、胸の骨かもしれんぞ。本に書いてある」
洋介が教科書を鉄也に見せながら言った。
「胸の骨ごと筋肉を切ります。ほら、ここに書いてあっじゃ」
「うん、わかった」

鉄也ははさみの向きを微妙にずらしながらパチパチやりだしたが、そのうち「パチン」と小さな音がして、一度に二センチも切れた。
「んっ?」

最初、赤いものが小さくポツンと見えた。
その赤いものは、しだいに切り口全体に大きく広がっていき、それからカエルの脇腹を流れてベニヤ板に達し、さらに放射状にじわじわと広がっていった。


 


Copyright (C)1999-2000 Terakoshi .All rights reserved.
通販美生活-美容・コスメショップ 通販夢生活-健康・癒しショップ