第五話

虫ピンと金づち


「てっちゃん、あ〜そ〜ぼ」
鉄也と亮一の同級の慎二が窓からイガグリ頭を突き出してきた。

「なにしとんが(なにしてるの)。・・うわっ、でっけえカエル」
慎二は小さな目を大きく見開いて嬉しそうに言った。

「カイボウ、カイボウ。仲間に入るか?」と鉄也。
「入る、入る」
「じゃあ、おまえはそこにいろ。ここはせまて(狭くて)四人ちゃ入れんじゃ」
玄関に回ろうとした慎二を鉄也が制した。

「慎二、仲間に入ったがなら、こいつをカエルの手に打て」
洋介が年上ぶったおうへいな態度で、虫ピンと金づちを慎二に持たせた。

慎二は困った時にいつもするように眉を八の字にして、渡された金づちとカエルを交互に見ていたが、突然涙をこぼした。窓の乾いた木の桟に、黒いしみが二つ、三つと広がった。慎二は気の小さい子だった。
「わかった、わかった。やらんでいいから、泣かれんな(泣くなよ)」
鉄也はため息をつきながら言った。

結局、亮一が虫ピンを打つことになった。
カエルの前足を握らされている慎二はもう泣き止んではいるが、来た時の元気はなくなってしまっていた。
「慎二、ちゃんと持っとってくれよ」
亮一はカエルの片方の手の平に虫ピンを突き刺し、ベニヤ板に打ち付けた。とたんに「ぐにゅっ」という肉の感触があった。
「洋ちゃん、ぼけっとしとらんと、ちょっと足んとこ押さえてくれよ。気持ちわりい」
そう言う鉄也のお腹をカエルが必死で蹴っている。

亮一は虫ピンだけに神経を集中させて金づちを振った。振るたぴに汗が噴き出してくる。もう片方の手も一気に打ちつける。息がつまりそうだ。
「ボウヤ、もう充分だちゃ」
鉄也の声に、急に肩のカが抜け、亮一は大きく息を吸い込んだ。見守るみんなの額からも大粒の汗が滴っている。

ベニヤ板に打ち付けられても、カエルの手の平は動いていた。虫ピンの上と下をスコスコと上下し続け、なんとも異様な光景だ。カエルの腕のあたりを押さえている慎二がまた涙を浮かべ始めた。

「足やれ、早く足やってしまえ」鉄也が亮一に言った。
「でも足、板からはみ出しとっぜ」
「そんなら、ここんとこにやれよ」と、鉄也はカエルの太股のあたりを顎で示した。



 

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