岩瀬小学校からの帰り道、亮一(りょういち)はいつもの線路わきを幼なじみの鉄也(てつや)と二人でとぼとぼ歩いていた。二人が通っていた岩瀬小学校から彼らの住む岩瀬浜までは、子供の足で30分程の道のりだった。
競輪場の近くまで来ると、すこし離れた田圃の用水路あたりで、七、八人の男の子が騒いでいるのが見えた。小学二年生くらいだ。どの子も胸から下を泥だらけにしている。悲鳴を上げている子もいる。
どうせフナでも捕まえているんだろうと亮一は思ったが、鉄也は、
「おまえら、何しとんが(何してるの)!」
と、大きな声で呼び掛けながらずんずん近付いていった。
しばらくの間、鉄也はみんなと一緒になにやら用水路を覗き込んでいたが、突然、
「 ボウヤ !」
と、甲高い声で亮一を呼んだ。両手で激しく手招きしている。
つらいことに、この頃の亮一のあだなはボウヤだった。原因は父親にある。末っ子の亮一を、父親が「坊や、坊や」と可愛がったせいだ。そのせいで、姉達や近所の大人達、それに近所の遊び友達までもが、小学五年生にもなった今でも亮一をボウヤと呼んでいた。
「カエル、おっぞ(いるぞ)!」
鉄也はやけに興奮したようすで、さかんに手招きしている。
なんだカエルかよ、と亮一は思った。カエルなんか、そこここに広がる田圃にいくらでもいる。亮一がつまんない思いで立ち止まっていると、鉄也がなおも叫んだ。
「こっち来い、カエルおっぞ!ボウヤ、来いよ!」
亮一がしかたなく傍に行くと、ほら、と鉄也が用水路の土手を指差した。
田圃のへりに沿って低く土で固めてある用水路の、土手の一部分が子どもたちに踏み荒らされてぐちゃぐちゃになっていた。土手の土は盛り上がり、強い陽射しを反射させている。
「まだわからんのか!」
鉄也はじれったくなったらしく、亮一を押しのけて用水路をまたぎ、腰をかがめると、「ほら、こいつだよ」ともう一度、今度はもっとはっきり指差した。
土が盛り上がっているだけじゃないか、と亮一が思った次の瞬間、その土の中から何かが浮かぴ上がってきた。
「うわあ!」
でかい。なんてでかいカエルだ。子供の頭ぐらいの大きさはあろうか。周りの土と同化した黒っぽい黄土色の皮ふ。顔から背中一面に広がる突起したイボ。イボ、イボ、イボ。みんなが大騒ぎするはずだ。
この異様な大きさは食用ガエルかもしれない。やわらかそうなぶよぶよの脇腹や後ろ足。食用ガエルにちがいない。
「でっけえなあ」
亮一が興奮して覗き込んでいると、周りを囲んでいた小二たちが、このカエルに出会ったきっかけや、いかに捕まえるのが難しいかを口々に話し始めた。彼らがいかに必死でカエルと格闘したかは、そんな話を聞かなくても、崩壊した土手や、汗と泥まみれの彼らの姿を見ればすでに一目瞭然だった。
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