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「恋の空中楼閣」より抜粋(その1) |
ダンス教習所にて より
俺はいつもの伝で、ふらりと銀座のダンス教習所に入って行った。随分来ていなかったけど、ちっとも変わっちゃいない。ぽっと突っ立っている野郎共の間から一望すると、いるいる、所在無さそぅに腰掛けて足を動かしているちょっと人目を引く顔が見えた。俺は女を見る眼には自信があるんだ。伊達にホールを廻ったんじゃない。案の定、断わるどころか嬉しそうに飛び付いてきた。
確かに男好きのするところが肉感的な体付きやすっきりした着こなしに窺われるが、じっと見る目付きには、”おいそれとは信用しないぞ”といった気配があって、これには少々参った。笑うとなかなか魅力がある。
ところが踊りときたら”助けてくれ!”だ。だが、そんなことおくびにも出さず、ずっと相手をしていた。彼女ときたら全く、他意なく嬉々として踊っているんだからな。尤もそれがダンスだって言えればの話だがね。
本当に今日は幸運だったわ。もう一度思いおこすのさえ厭わしいけれど、会う度に音楽会に誘うお年寄りだとか、人の給料の額ばかり気にする俗物の建築屋だとか、それにしつこく迫った用心棒風情の男、スイス製の高級時計やフランス製のライターなんかちらつかせ、更にピストル所持証とやらを見せて、
「何をしてるか当ててごらんよ」と得意気なので、皮肉をこめて、
「警察官かしら?」って答えたら、げらげら笑っていたっけ、嫌な奴。みんな碌でなしとばかりにはねつけてしまったので誰にも相手にされなくなった。今日もあっちの方でこれみよがしに踊っている。
ところがどう? 確かに私にはわかった。彼が人垣の間からすっと入って来て、まっすぐに私のところに来たのを。ともう一気に踊りの中へ誘い込んでしまった。ひとなつこい笑顔とスマートな身のこなし、それに確実な歩の運びと力強い脚で戸惑いがちな私を引っぱっていった。だから私はただ彼に体を預けていればいいのだ。